アールエスウイルス感染症の急性期の症状、つまり高熱や激しい体の痛みは数日で治まった。しかし、それから何週間も、時には一ヶ月以上も、乾いた咳や、少しの刺激で咳き込むといった症状だけが、しつこく残っている。このような経験をする大人は少なくありません。この「感染後に長引く咳」は、患者にとって大きな悩みであり、日常生活の質を著しく低下させます。この現象は、「感染後咳嗽(かんせんごがいそう)」と呼ばれ、アールエスウイルス感染後には特に起こりやすいとされています。そのメカニズムは、ウイルスそのものが体内に残っているわけではなく、ウイルスとの激しい戦いによって、気道の粘膜が深く傷つき、その「後遺症」として、気道が非常に敏感な状態(気道過敏性)になってしまうことにあります。健康な状態であれば何ともないような、少しの冷たい空気や、会話、ホコリ、タバコの煙といった些細な刺激に対しても、気道が過剰に反応してしまい、咳の発作を引き起こしてしまうのです。この状態は、軽症の「咳喘息」に似た病態とも言えます。ウイルスという嵐は過ぎ去ったものの、嵐によって荒らされた気道が、元の穏やかな状態に戻るまでに、長い時間を要するというイメージです。では、このつらい長引く咳と、どう向き合っていけば良いのでしょうか。まず、日常生活でのセルフケアが重要です。気道を刺激しないように、部屋の湿度を適切に保つ(加湿器の使用など)、こまめに水分を補給して喉を潤す、マスクを着用して冷たい空気やホコリの吸入を防ぐ、香辛料の強い食事や喫煙を避ける、といった対策が有効です。しかし、セルフケアだけでは咳が改善しない、あるいは夜間の咳で睡眠が妨げられるなど、生活への支障が大きい場合は、我慢せずに医療機関、特に呼吸器内科を受診することが大切です。医療機関では、一般的な咳止めが効かないことも多いため、気道の過敏な炎症を抑えるための「吸入ステロイド薬」や、気管支を広げる薬が処方されることがあります。これらの薬を適切に使用することで、荒れた気道の回復を助け、つらい咳の連鎖を断ち切ることが期待できます。長引く咳は、体がまだ本調子ではないというサインです。安易に放置せず、その声に耳を傾け、適切なケアを行うことが重要です。
アールエス感染後に咳が長引く時の謎