手のしびれ。最初は、時々感じる程度の些細な違和感だったかもしれません。「そのうち治るだろう」「疲れているだけだ」と、自分に言い聞かせ、日々の忙しさにかまけて放置してはいないでしょうか。しかし、その長引く手のしびれ、特に手根管症候群によるしびれを放置し続けることには、あなたの将来の「手の機能」を損なう、深刻なリスクが潜んでいます。手根管症候群は、手首のトンネルで正中神経が圧迫される病気です。神経は、圧迫され続けると、徐々にダメージが蓄積し、その機能が失われていきます。初期段階では、しびれや痛みといった「感覚神経」の症状が主ですが、圧迫が長期化すると、筋肉を動かす「運動神経」にまで障害が及んでくるのです。その結果として現れるのが、「巧緻運動障害(こうちうんどうしょうがい)」です。これは、指先の細かい、巧みな動きが困難になる状態で、日常生活の中に、様々な不便として現れ始めます。例えば、「シャツのボタンがかけにくくなった」「お箸で小さな豆が掴めない」「針に糸が通せない」「小銭を財布から取り出しにくい」といった症状です。これらは、単なる不器用さではなく、神経麻痺の始まりのサインなのです。さらに症状が進行すると、最も深刻な変化である「母指球筋(ぼしきゅうきん)の萎縮」が起こります。母指球筋とは、親指の付け根にある、ふっくらとした筋肉のことで、物をつまんだり、握ったりする上で、非常に重要な役割を果たしています。正中神経はこの筋肉を支配しているため、神経への圧迫が続くと、筋肉に指令が届かなくなり、栄養が行き渡らず、やせ細ってしまうのです。一度萎縮してしまった筋肉は、たとえ手術で神経の圧迫を取り除いたとしても、完全に元の状態に戻ることは非常に困難です。その結果、瓶の蓋が開けられない、ペットボトルをしっかり持てないといった、握力の低下が後遺症として残ってしまう可能性があります。手のしびれは、あなたの体が発している、助けを求める悲鳴です。感覚が鈍くなる、物が掴みにくくなるといった変化は、神経のダメージが進行している証拠です。取り返しのつかない状態になる前に、できるだけ早い段階で専門医を受診し、適切な治療を開始することが、あなたの「手」の未来を守るために、何よりも大切なことなのです。
長引く手のしびれを放置してはいけない理由