あれは忘れもしない、2月の寒い日のことでした。最初は、喉のイガイガと軽い鼻水から始まりました。いつもの風邪のひき始めだなと軽く考え、市販の風邪薬を飲んで仕事に向かいました。しかし、翌日になると体中の関節が痛みだし、熱も38度を超えました。インフルエンザを疑いましたが、検査の結果は陰性。医師からは「風邪でしょう」と告げられ、解熱剤と咳止めを処方されて帰宅しました。本当の地獄が始まったのは、その2日後の夜からです。それまでの乾いた咳が、突然、肺の奥からこみ上げてくるような、湿った重い咳に変わったのです。一度咳き込むと、まるで溺れるかのように息が苦しくなり、顔が真っ赤になるまで止まりません。粘り気の強い、緑がかった痰が絶え間なく絡みつき、それを排出しようと、さらに激しい咳が誘発されるという悪循環。夜は、咳の発作で何度も目を覚まし、ほとんど眠ることができませんでした。横になると咳がひどくなるため、壁に寄りかかって座ったまま、浅い眠りを繰り返すしかありませんでした。あまりの咳の激しさに、胸の筋肉は張り裂けそうに痛み、しまいには腹筋までつる始末。食事の味も分からず、ただ体力を消耗していく日々に、精神的にも追い詰められていきました。最初の発症から一週間後、あまりの症状のひどさに、呼吸器内科を専門とする別のクリニックを受診しました。これまでの経緯と、特徴的な咳の症状を話すと、医師はすぐにアールエスウイルスを疑い、迅速検査を行いました。結果は、陽性。「大人がかかると、こうやってひどい咳が長引くんですよ」という医師の言葉に、ようやく自分の苦しみの原因が分かり、少しだけ安堵したのを覚えています。しかし、特効薬はありません。処方されたのは、気管支を広げる吸入薬と、痰を出しやすくする薬だけ。あとは、ひたすら自分の免疫力がウイルスに打ち勝つのを待つしかありませんでした。結局、激しい咳が少し落ち着くまで2週間、そして完全に咳が気にならなくなるまでには、一ヶ月以上の時間を要しました。たかが風邪、と侮っていた自分を心から悔やみました。大人のアールエスウイルスが、これほどまでに長く、そして深く、心と体を蝕むものであることを、私はこの身をもって知ったのです。
私が経験した大人のアールエス闘病記