病気別の対策・生活の工夫・患者会などの紹介

2025年8月
  • 長引く手のしびれを放置してはいけない理由

    知識

    手のしびれ。最初は、時々感じる程度の些細な違和感だったかもしれません。「そのうち治るだろう」「疲れているだけだ」と、自分に言い聞かせ、日々の忙しさにかまけて放置してはいないでしょうか。しかし、その長引く手のしびれ、特に手根管症候群によるしびれを放置し続けることには、あなたの将来の「手の機能」を損なう、深刻なリスクが潜んでいます。手根管症候群は、手首のトンネルで正中神経が圧迫される病気です。神経は、圧迫され続けると、徐々にダメージが蓄積し、その機能が失われていきます。初期段階では、しびれや痛みといった「感覚神経」の症状が主ですが、圧迫が長期化すると、筋肉を動かす「運動神経」にまで障害が及んでくるのです。その結果として現れるのが、「巧緻運動障害(こうちうんどうしょうがい)」です。これは、指先の細かい、巧みな動きが困難になる状態で、日常生活の中に、様々な不便として現れ始めます。例えば、「シャツのボタンがかけにくくなった」「お箸で小さな豆が掴めない」「針に糸が通せない」「小銭を財布から取り出しにくい」といった症状です。これらは、単なる不器用さではなく、神経麻痺の始まりのサインなのです。さらに症状が進行すると、最も深刻な変化である「母指球筋(ぼしきゅうきん)の萎縮」が起こります。母指球筋とは、親指の付け根にある、ふっくらとした筋肉のことで、物をつまんだり、握ったりする上で、非常に重要な役割を果たしています。正中神経はこの筋肉を支配しているため、神経への圧迫が続くと、筋肉に指令が届かなくなり、栄養が行き渡らず、やせ細ってしまうのです。一度萎縮してしまった筋肉は、たとえ手術で神経の圧迫を取り除いたとしても、完全に元の状態に戻ることは非常に困難です。その結果、瓶の蓋が開けられない、ペットボトルをしっかり持てないといった、握力の低下が後遺症として残ってしまう可能性があります。手のしびれは、あなたの体が発している、助けを求める悲鳴です。感覚が鈍くなる、物が掴みにくくなるといった変化は、神経のダメージが進行している証拠です。取り返しのつかない状態になる前に、できるだけ早い段階で専門医を受診し、適切な治療を開始することが、あなたの「手」の未来を守るために、何よりも大切なことなのです。

  • 突発性発疹の熱と発疹はいつまで続くのか

    医療

    我が子に突然、39度を超えるような高熱が出た時、多くの保護者は強い不安に駆られます。他に目立った症状はなく、ただひたすらに高い熱。小児科を受診しても「おそらく突発性発疹でしょうが、熱が下がって発疹が出るまでは確定できません」と言われ、もどかしい気持ちで過ごす数日間。この病気の全体像と、それぞれの症状がいつまで続くのかを知っておくことは、保護者の不安を和らげる上で非常に重要です。突発性発疹の経過は、非常に典型的で、ドラマチックな二段階のプロセスを辿ります。まず第1段階は「発熱期」です。多くの場合、前触れもなく38度から40度の高熱が突然出ます。この高熱は、通常3日から4日間続きます。熱が高い割には、比較的機嫌が良く、水分も摂れることが多いのが特徴ですが、もちろん個人差はあり、ぐったりしてしまう子もいます。この期間は、解熱剤を適切に使いながら、水分補給を徹底し、子どもが楽に過ごせるようにサポートすることが中心となります。そして、この熱がストンと平熱に下がると、第2段階である「発疹期」へと移行します。まるで熱と入れ替わるように、解熱とほぼ同時に、お腹や背中を中心に、赤く細かい発疹が現れ始めます。この発疹は、次第に顔や首、手足へと広がっていきますが、不思議なことに、痒みや痛みはほとんど伴いません。この発疹こそが、それまでの高熱が突発性発疹によるものであったことを確定させる「診断の証」となるのです。保護者としては、熱が下がったのに今度は全身に発疹が出てきて、新たな心配をしてしまうかもしれませんが、これは病気が治癒に向かっているサインなので、安心してください。この発疹の期間は、およそ3日から4日程度です。その後は、まるで嵐が過ぎ去ったかのように、跡形もなく綺麗に消えていきます。つまり、発熱期と発疹期を合わせると、病気の主な症状が続く期間は、全体で約1週間程度ということになります。この典型的な経過を知っておくだけで、「この熱はあと数日、発疹が出ても数日で消える」という見通しが立ち、少しだけ落ち着いて看病に臨むことができるでしょう。

  • アールエス感染後に咳が長引く時の謎

    医療

    アールエスウイルス感染症の急性期の症状、つまり高熱や激しい体の痛みは数日で治まった。しかし、それから何週間も、時には一ヶ月以上も、乾いた咳や、少しの刺激で咳き込むといった症状だけが、しつこく残っている。このような経験をする大人は少なくありません。この「感染後に長引く咳」は、患者にとって大きな悩みであり、日常生活の質を著しく低下させます。この現象は、「感染後咳嗽(かんせんごがいそう)」と呼ばれ、アールエスウイルス感染後には特に起こりやすいとされています。そのメカニズムは、ウイルスそのものが体内に残っているわけではなく、ウイルスとの激しい戦いによって、気道の粘膜が深く傷つき、その「後遺症」として、気道が非常に敏感な状態(気道過敏性)になってしまうことにあります。健康な状態であれば何ともないような、少しの冷たい空気や、会話、ホコリ、タバコの煙といった些細な刺激に対しても、気道が過剰に反応してしまい、咳の発作を引き起こしてしまうのです。この状態は、軽症の「咳喘息」に似た病態とも言えます。ウイルスという嵐は過ぎ去ったものの、嵐によって荒らされた気道が、元の穏やかな状態に戻るまでに、長い時間を要するというイメージです。では、このつらい長引く咳と、どう向き合っていけば良いのでしょうか。まず、日常生活でのセルフケアが重要です。気道を刺激しないように、部屋の湿度を適切に保つ(加湿器の使用など)、こまめに水分を補給して喉を潤す、マスクを着用して冷たい空気やホコリの吸入を防ぐ、香辛料の強い食事や喫煙を避ける、といった対策が有効です。しかし、セルフケアだけでは咳が改善しない、あるいは夜間の咳で睡眠が妨げられるなど、生活への支障が大きい場合は、我慢せずに医療機関、特に呼吸器内科を受診することが大切です。医療機関では、一般的な咳止めが効かないことも多いため、気道の過敏な炎症を抑えるための「吸入ステロイド薬」や、気管支を広げる薬が処方されることがあります。これらの薬を適切に使用することで、荒れた気道の回復を助け、つらい咳の連鎖を断ち切ることが期待できます。長引く咳は、体がまだ本調子ではないというサインです。安易に放置せず、その声に耳を傾け、適切なケアを行うことが重要です。

  • 喉の痛み、内科と耳鼻咽喉科の診察の違い

    医療

    喉の痛みで病院を受診する際、内科と耳鼻咽喉科では、その診察のアプローチや用いる器具、そして治療法にどのような違いがあるのでしょうか。それぞれの特徴を理解しておくことは、自分の症状に合った、より適切な医療を受ける助けとなります。まず、「内科」での診察は、問診と身体診察が中心となります。医師は、喉の痛みだけでなく、発熱、咳、鼻水、頭痛、関節痛、腹部症状など、全身の状態を総合的にヒアリングします。そして、聴診器で胸の音を聞いて肺炎の有無を確認したり、お腹を触診したりします。喉の観察については、ペンライトで口の中を照らし、舌圧子(ぜつあつし)というヘラのような器具で舌を押さえて、口蓋扁桃(いわゆる扁桃腺)や咽頭後壁の状態を目で見て確認します。この視診で、喉の赤みや腫れの程度、膿の付着などを評価します。内科の強みは、このように全身を広く診ることで、喉の痛みが、風邪やインフルエンザといった全身性疾患の一部なのか、あるいは他の内科的疾患と関連していないかを判断できる点にあります。一方、「耳鼻咽喉科」での診察は、より喉に特化した、専門的なアプローチが特徴です。問診で喉の症状を詳しく聞いた後、内科と同様の視診も行いますが、耳鼻咽喉科の真骨頂は、そこからさらに踏み込んだ観察にあります。その代表的な武器が、「内視鏡(ファイバースコープ)」です。これは、先端にカメラが付いた細く柔らかい管を、鼻から挿入し、肉眼では決して見ることのできない、喉のさらに奥、つまり鼻の奥(上咽頭)、舌の付け根、そして声を出す声帯がある「喉頭(こうとう)」まで、直接モニターに映し出して観察することができます。これにより、急性喉頭蓋炎や声帯ポリープ、あるいは咽喉頭がんといった、命に関わる病気や、声のかすれの原因となる病変を、正確に診断することが可能になります。治療法においても違いがあります。内科が主に内服薬や点滴で全身に薬を作用させるのに対し、耳鼻咽喉科では、それに加えて、喉に直接薬を噴霧したり、ネブライザーという機器で薬剤を霧状にして吸入させたりといった、患部に直接働きかける局所的な治療を積極的に行います。この局所治療は、痛みを速やかに和らげる上で非常に効果的です。

  • 妊娠中や更年期の女性を悩ませる手のしびれ

    医療

    手根管症候群は、男性よりも女性に多く見られる病気ですが、特に、女性のライフステージの中でも「妊娠・出産期」と「更年期」に発症しやすいという顕著な特徴があります。この時期の女性を悩ませる手のしびれは、女性ホルモンのダイナミックな変動と深く関係しています。まず、妊娠中、特に妊娠後期になると、多くの妊婦さんが手や足のむくみ(浮腫)を経験します。これは、女性ホルモンであるプロゲステロンの作用や、大きくなった子宮が血流を圧迫することなどが原因で、体内に水分が溜まりやすくなるためです。このむくみが、手首にある手根管というトンネルの内壁にも生じると、トンネル内の圧力が高まり、中を通っている正中神経が圧迫されて、手根管症候群の症状、つまり手のしびれや痛みが引き起こされるのです。多くの場合、この症状は一時的なもので、出産後にホルモンバランスが元に戻り、むくみが解消されると共に、自然に軽快していきます。しかし、症状が強く、夜も眠れないほどの痛みに悩まされる場合は、我慢せずに整形外科に相談することが大切です。授乳中でも安全に使える装具療法や、局所的な治療で症状を和らげることができます。一方、更年期(40代後半から50代)の女性も、同様に手根管症候群を発症しやすい時期です。この時期は、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が急激に減少し、ホルモンバランスが大きく乱れます。これにより、関節や腱の周りにある滑膜という組織が腫れてむくみやすくなり、結果として手根管内の神経を圧迫すると考えられています。また、長年の家事や仕事による手の酷使が、この時期に症状として現れやすくなるという側面もあります。妊娠中も更年期も、女性の体にとって大きな変化の時です。その変化のサインとして現れる手のしびれを、「よくあることだから」と我慢しすぎないでください。適切なケアや治療を受けることで、つらい症状を乗り越え、より快適な毎日を送ることが可能なのです。

  • 解熱後の不機嫌は一体いつまで続くのか

    生活

    突発性発疹を経験した多くの保護者が、口を揃えて「熱よりも、その後の不機嫌の方が何倍も大変だった」と語ります。高熱が下がり、病気の峠は越えたはずなのに、我が子はまるで別人のように、一日中泣き叫び、甘え、何をしても気に入らない「不機嫌の塊」と化してしまう。この現象は、突発性発疹の最大の特徴とも言えるものであり、保護者の心身を最も消耗させる試練の期間です。この、出口の見えないような不機嫌は、一体いつまで続くのでしょうか。まず、なぜこのような極端な不機嫌が起こるのか。その正確な原因は、実はまだ医学的にはっきりと解明されていません。しかし、いくつかの要因が複合的に関わっていると考えられています。一つは、高熱による「身体的な消耗」です。数日間にわたる高熱との戦いで、子どもの体力は限界まで奪われています。大人でも高熱の後は体がだるく、気分が優れないものです。言葉で不調を訴えられない赤ちゃんは、その不快感を「泣く」「ぐずる」という形でしか表現できないのです。また、突発性発疹の原因であるヒトヘルペスウイルス6型が、脳に何らかの一時的な影響を与え、情動が不安定になるのではないか、という説もあります。脳がまだ未熟な乳幼児だからこそ、このような顕著な不機嫌として現れるのかもしれません。では、この試練の期間は、いつまで続くのでしょうか。個人差が非常に大きいですが、一般的には、「解熱後から始まり、2~3日間がピーク」で、その後は徐々に落ち着いていくことが多いとされています。まさに、発疹が出ている期間と、この不機嫌の期間は、ほぼ重なっていると考えてよいでしょう。保護者にとっては、永遠に続くかのように感じられる辛い時間ですが、「終わりは必ず来る」ということを、どうか忘れないでください。この時期を乗り切るための特効薬はありません。ひたすら子どもの要求に付き合い、安全を確保しながら、保護者自身が倒れないようにすることが何よりも大切です。パートナーと協力して休息を取る、家事は最低限にする、好きな音楽を聴くなど、少しでも自分の心を守る工夫をしてください。「いつまで」と終わりを待ち望むよりも、今この瞬間をどう乗り切るかに集中することが、結果的にこの嵐をやり過ごすための最善策となるのです。

  • 大人がアールエスに罹患した時の影響

    医療

    大人がアールエスウイルスに感染した場合、その影響は、単に「ひどい風邪をひいた」という身体的な苦痛だけに留まりません。特に、その特徴である激しく長期化する咳は、仕事や日常生活といった社会的な側面に、深刻な影を落とすことがあります。まず、多くの人が直面するのが「仕事への影響」です。アールエスウイルス感染症には、インフルエンザのように「発症後5日かつ解熱後2日」といった、法律で定められた明確な出席停止期間はありません。そのため、休むべき期間の判断は、個人の症状と、職場の状況に委ねられることになります。しかし、高熱が出ている急性期はもちろんのこと、熱が下がった後も、激しい咳が続いている間は、出勤は控えるべきです。咳き込むたびにウイルスを含む飛沫を周囲に撒き散らし、職場内で感染を拡大させる「感染源」となってしまうからです。また、接客業や営業職など、人と話すことが仕事の中心である場合、絶え間なく続く咳は、業務の遂行そのものを困難にします。無理して出勤しても、集中力が続かず、生産性は著しく低下するでしょう。症状が回復するまでには、少なくとも1~2週間、場合によってはそれ以上の休養が必要となることも覚悟しなければなりません。次に、「日常生活への影響」も甚大です。夜も眠れないほどの咳の発作は、深刻な睡眠不足と体力の消耗を招きます。日中は常に疲労感や倦怠感がつきまとい、家事や育児といった、当たり前の日常をこなすことすら困難になります。特に、子育て中の親が感染した場合、自身のつらい症状と闘いながら、子どもの世話をしなければならないという、二重の苦しみに見舞われます。また、咳が長引くことで、周囲からの視線が気になるという精神的なストレスも生まれます。電車の中や、静かなオフィスで咳き込んでしまい、周りの人から怪訝な顔をされたり、避けられたりする経験は、心を深く傷つけます。大人がアールエスウイルスにかかるということは、単なる病気ではなく、社会生活からの一次的な離脱を余儀なくされる可能性のある、重大な出来事なのです。そのためには、まず自分自身が病気について正しく理解し、無理をせずしっかりと休養を取ること。そして、職場や家族に対して、症状のつらさや感染力について誠実に説明し、理解と協力を得ることが、この困難な時期を乗り越えるために不可欠となります。

  • 喉が痛い時に行くべき診療科とその見分け方

    医療

    喉の痛みは、風邪の初期症状から深刻な病気のサインまで、非常に多くの原因によって引き起こされる、ありふれた症状です。しかし、いざ病院へ行こうと思った時、「この喉の痛みは、内科に行くべきか、それとも耳鼻咽喉科に行くべきか」と、最初の選択で迷ってしまう人は少なくありません。適切な診療科を正しく選ぶことは、迅速な診断と効果的な治療への第一歩です。ここでは、症状に応じた診療科の選び方について、詳しく解説します。まず、喉の痛みに加えて、咳、鼻水、発熱、全身の倦怠感といった、いわゆる「風邪の症状」が全体的に現れている場合は、「内科」を受診するのが一般的です。内科は、体全体の不調を総合的に診断し、治療する専門家です。風邪やインフルエンザなど、全身症状を伴う疾患が原因である場合、内科での診察が適しています。特に、普段から高血圧や糖尿病などの持病でかかっている「かかりつけの内科医」がいる場合は、まずはそこに相談するのが最もスムーズでしょう。一方、喉の痛みが他の症状と比べて突出して強い場合や、特定の症状を伴う場合は、「耳鼻咽喉科」が最適の選択となります。耳鼻咽喉科は、その名の通り、耳、鼻、喉(咽頭・喉頭)の専門家です。例えば、「唾も飲み込めないほどの激しい痛み」「声がかすれて出ない(嗄声)」「耳の痛みや詰まり感を伴う」「鼻づまりがひどい」といった、局所的な症状が強いケースでは、耳鼻咽喉科の専門的な知識と設備が不可欠です。耳鼻咽喉科では、内視鏡(ファイバースコープ)を使って、肉眼では見えない喉の奥や声帯の状態を直接、詳細に観察することができます。これにより、急性喉頭蓋炎や扁桃周囲膿瘍といった、緊急性の高い病気を見逃さずに診断することが可能です。また、喉に直接薬を噴霧したり、ネブライザーで薬剤を吸入したりといった、専門的な処置を受けられるのも大きなメリットです。まとめると、判断のポイントは「症状の広がり」です。熱やだるさなど、全身に症状が広がっているなら「内科」。喉や鼻、耳の局所的な症状が際立って強いなら「耳鼻咽喉科」。この基本的な考え方を覚えておくと、いざという時に迷わずに済みます。もし、どちらか判断に迷う場合は、より専門的な診察が可能な耳鼻咽喉科を先に受診するのが、確実な選択と言えるかもしれません。

  • 脇汗がひどいのはなぜ?そのメカニズムと原因

    知識

    暑い日や運動をした時はもちろん、緊張した場面やストレスを感じた時、じっとりとシャツにシミを作る脇汗。多くの人が経験する自然な生理現象ですが、その量が異常に多かったり、季節や状況に関わらず常に悩まされたりする場合、それは単なる「汗っかき」では済まされない、深刻な悩みとなります。この「ひどい脇汗」は、一体どのようなメカニズムで起こるのでしょうか。その原因は、汗を分泌する汗腺の種類と、自律神経の働きに深く関係しています。私たちの体には、「エクリン汗腺」と「アポクリン汗腺」という二種類の汗腺が存在します。体温調節のために全身に分布しているのがエクリン汗腺で、ここから出る汗は99パーセントが水分で、サラサラとしており無臭です。一方、アポクリン汗腺は、脇の下や陰部など特定の場所に存在し、タンパク質や脂質などを含む、少し粘り気のある汗を分泌します。この汗自体は無臭ですが、皮膚の常在菌によって分解されることで、ワキガ特有のニオイの原因となります。ひどい脇汗、特に局所的に多量の汗をかく「局所多汗症」の主な原因となるのは、エクリン汗腺の機能が過剰に活発になっている状態です。そして、この汗腺の働きをコントロールしているのが、私たちの意思とは関係なく体の機能を調整する「自律神経」です。自律神経は、活動時に優位になる「交感神経」と、リラックス時に優位になる「副交感神経」から成り立っています。発汗を促すのは、このうちの交感神経です。通常、交感神経は体温が上昇した時(温熱性発汗)や、運動をした時に活発になります。しかし、精神的なストレスや緊張、不安を感じた時(精神性発汗)にも、交感神経は強く刺激されます。プレゼンテーションや大事な会議の前に、脇や手のひらに汗をかくのはこのためです。ひどい脇汗に悩む人の多くは、この交感神経が、他の人よりも敏感に、そして過剰に反応しやすい体質であると考えられています。また、食生活の乱れやホルモンバランスの変動、肥満なども、自律神経のバランスを崩し、発汗を助長する要因となり得ます。つまり、ひどい脇汗は、体質的な交感神経の過敏さに、精神的な要因や生活習慣が複雑に絡み合って引き起こされる、根深い問題なのです。

  • その高熱と発疹、いつまで様子を見るべきか

    医療

    子どもの突然の高熱と、その後に現れる発疹。この組み合わせは、突発性発疹の典型的な症状ですが、一方で、麻疹(はしか)や風疹、川崎病など、他の重要な病気の可能性も頭をよぎり、保護者を不安にさせます。「これは本当に突発性発疹なのだろうか」「いつまで自宅で様子を見ていて良いのだろうか」という疑問に、どう向き合えばよいのでしょうか。まず、突発性発疹と他の病気を見分ける上で、最も重要なポイントは、「熱と発疹の出現するタイミング」です。突発性発疹の最大の特徴は、「熱が下がった後」に発疹が現れることです。これに対し、他の多くの発疹性疾患は、「高熱と同時期」に発疹が出始めます。例えば、「麻疹(はしか)」は、高熱と共に、咳や鼻水、目の充血といったカタル症状が強く現れ、口の中にコプリック斑という白い斑点が見られた後、熱がさらに上昇するタイミングで、耳の後ろから発疹が出始めます。発疹は次第に融合し、治った後には色素沈着が残ります。「風疹」は、発熱は比較的軽度なことが多く、発熱と同時に、細かい赤い発疹が顔から全身に広がります。首のリンパ節の腫れも特徴的です。「アデノウイルス感染症」でも、高熱と発疹が出ることがありますが、喉の強い痛みや目の充血といった症状を伴うことが多いです。これらの違いを知っておくことは、過度な不安を和らげる助けになります。では、受診のタイミングはいつが良いのでしょうか。高熱が出ただけの段階では、たとえ医師であっても、突発性発疹と確定診断することはできません。しかし、子どもが以下の様な状態であれば、すぐに医療機関を受診する必要があります。それは、「ぐったりして元気がない」「水分補給が全くできない」「顔色が悪い」「呼吸が苦しそう」、そして「けいれんを起こした」場合です。特に、突発性発疹では、高熱に伴う「熱性けいれん」を起こすことがあるため、その際は慌てずに体を横向きにし、衣服を緩め、時間を計りながら、けいれんが収まった後に速やかに受診してください。元気があり、水分が摂れていれば、夜間や休日に無理に救急外来を受診する必要はありませんが、不安な場合は、電話相談などを利用するのも良いでしょう。突発性発疹は、「後付け診断」の病気です。熱が下がり、特徴的な発疹が出て初めて、「ああ、やっぱりそうだったのか」と分かるものなのです。