「むちうち」と聞くと、多くの人は「首が痛くなる怪我」というイメージを持つでしょう。確かに、首の痛み(頸部痛)や、肩こり、首が回らないといった症状は、むちうちの最も代表的な症状です。しかし、その症状は、首や肩だけにとどまらず、実に多彩で、時には全身に及び、長期間にわたって患者さんを苦しめることがあります。これらの症状を正しく理解しておくことは、適切な治療を受け、周りの人に自分のつらさを理解してもらうためにも重要です。むちうちは、その損傷のタイプによって、いくつかの型に分類されます。最も多いのが「頸椎捻挫型」で、首周りの筋肉や靭帯が損傷するものです。首の痛みや肩こり、首の可動域制限が主な症状です。次に、首の骨の間から出ている神経の根元(神経根)が、損傷や圧迫を受けると、「神経根症状型」となります。この場合、首の痛みに加えて、その神経が支配している領域、つまり、腕や手、指先に、放散するような痛みや、しびれ、だるさ、筋力の低下といった症状が現れます。さらに、首の内部を通っている自律神経が、衝撃によってダメージを受けると、「バレ・リュー症候群型」と呼ばれる、非常に多彩な症状が出現します。自律神経は、体の様々な機能をコントロールしているため、そのバランスが乱れると、頭痛(特に後頭部)、めまい、耳鳴り、難聴、吐き気、かすみ目、全身の倦怠感、集中力の低下、不眠、気分の落ち込みといった、一見すると首の怪我とは関係なさそうに思える、様々な不定愁訴に悩まされることになります。これらの症状は、天候や気圧の変化、精神的なストレスによって変動しやすいのも特徴です。また、非常に稀ですが、脊髄そのものが損傷を受けると、「脊髄症状型」となり、手足の麻痺や、歩行障害、排尿・排便障害といった、重篤な後遺症を残すこともあります。このように、むちうちの症状は、単なる「首の痛み」という言葉だけでは片付けられない、複雑で、そして深刻な側面を持っています。もし、事故後に、これらの多彩な症状が現れた場合は、我慢せずに、必ず医師に伝え、適切な診断と治療を受けるようにしてください。
むちうちの多彩な症状。首の痛みだけではない、つらい後遺症