アールエスウイルス感染症と聞くと、多くの人が乳幼児がかかる冬の代表的な呼吸器感染症というイメージを抱くでしょう。確かに、新生児や乳児が感染すると、細気管支炎や肺炎を引き起こし、重症化するリスクが高いことで知られています。しかし、「アールエスウイルスは子どもの病気」という認識は、実は大きな誤解です。このウイルスは、年齢を問わず、生涯にわたって何度も感染を繰り返す非常にありふれたウイルスであり、当然ながら大人も感染します。では、なぜ大人の感染はあまり知られていないのでしょうか。その理由は、大人が感染した場合の症状が、一般的な風邪の症状と非常によく似ているため、「ひどい風邪をひいた」として見過ごされてしまうケースがほとんどだからです。大人がアールエスウイルスに初めて感染することは稀で、ほとんどが子どもの頃に経験した再感染です。そのため、ある程度の免疫が働いて、乳幼児のような重篤な状態に陥ることは少ないのです。しかし、だからといって症状が軽いわけではありません。大人の場合、初期症状は鼻水や喉の痛み、微熱といった、ごく普通の風邪のような症状から始まります。しかし、数日が経過するにつれて、その様相は一変します。最大の特徴は、粘り気の強い痰を伴う、非常に激しく、そしてしつこい咳です。一度咳き込みだすと止まらなくなり、夜も眠れないほどの咳発作に苦しめられることも少なくありません。あまりの咳の激しさに、肋骨や腹筋が筋肉痛になったり、ひどい場合は肋骨にひびが入ったりすることさえあります。この咳が数週間にわたって続くことも珍しくなく、日常生活や仕事に大きな支障をきたします。特に、高齢者や、喘息、心臓病などの基礎疾患を持つ人が感染した場合は、免疫力の低下から重症の肺炎を引き起こし、入院治療が必要となる危険性もあります。アールエスウイルスは、決して子どもだけの病気ではありません。長引くひどい咳に悩まされたら、それはただの風邪ではなく、大人のアールエスウイルス感染症かもしれない。その可能性を念頭に置き、正しい知識を持つことが、自身の健康と周囲への感染拡大を防ぐための第一歩となるのです。