小学一年生の息子、翔太が、夏休みに入ってすぐに、楽しみにしていたスイミングスクールの短期教室に通い始めた。しかし、3日目の朝、翔太は「口の中が痛くて、ご飯が食べられない」と泣き出した。見てみると、舌にいくつも口内炎ができており、手のひらにも赤いポツポツが数個。熱は微熱程度だったが、母親の私は、すぐにピンと来た。「手足口病だ」。小児科での診断も、やはり同じだった。医師からは、「しばらくプールはお休みしてくださいね」と告げられた。翔太は、プールに行けないことがショックだったようで、しょんぼりとしていた。その数日後、今度は4歳の娘、美咲の体に異変が現れた。手のひらと足の裏に、翔太よりも多くの、はっきりとした水ぶくれが出現したのだ。幸い、美咲は口の中の症状は軽く、食欲も元気もあった。兄妹で、症状の出方が全く違うことに、私は感染症の個人差というものを実感した。問題は、その週末に予定していた、家族でのプール旅行だった。美咲は、発疹はあるものの、熱もなく、元気いっぱい。「プール行きたい!」と、毎日カレンダーを指さしている。私は悩んだ。熱もなく、元気なら、連れて行ってあげたい。でも、発疹がある状態でプールに入れるのは、周りの目も気になるし、衛生的にどうなのだろうか。私は、かかりつけの小児科医に電話で相談してみることにした。医師は、こうアドバイスをくれた。「美咲ちゃんの全身状態が良く、水ぶくれが破れていなくて、本人が入りたがっているなら、家族だけで楽しむ貸切風呂や、お部屋のユニットバスで、少しだけ水遊びさせてあげるのは良いでしょう。でも、不特定多数の人が利用する大きなプールは、やはり控えるべきです。プールの水でうつるリスクは低いですが、脱衣所やプールサイドでの接触感染のリスクはありますし、何より、まだ体力が完全に戻っていない状態で、体力を消耗させてしまうのは良くありません。そして、周りの保護者の方を不安にさせてしまう可能性も考慮すべきですね」。私は、医師の言葉に納得した。そして、家族で話し合い、プール旅行はキャンセルし、代わりに、自宅のベランダで、小さなビニールプールを出して水遊びをすることにした。周りへの配慮と、子供の体調を最優先に考えること。それが、感染症が流行る夏を、家族で乗り切るために最も大切なことなのだと、改めて感じた出来事だった。
ある家族の夏休み。手足口病とプールの選択