手足口病は一般的に乳幼児の間で流行する夏風邪の一種として認識されていますが、近年では大人が感染するケースが散見され、その症状の激しさが社会的な関心を集めています。大人の手足口病が子供のそれと決定的に異なる点は、全身に及ぶ強烈な倦怠感と、生活に支障をきたすほどの激痛です。原因となるのは主にコクサッキーウイルスA6、A16、あるいはエンテロウイルス71といったウイルスですが、これらは非常に感染力が強く、看病している親や保育の現場で働く大人が飛沫や接触を通じて容易に罹患します。大人が発症した場合、初期症状として三十八度から三十九度を超える高熱が出ることが多く、これに伴って激しい頭痛や筋肉痛、寒気が襲います。熱が下がると同時に、あるいは並行して、手のひら、足の裏、そして口の中に特徴的な水疱性発疹が現れますが、大人の場合、この発疹が非常に痛むのが特徴です。手のひらの発疹は物に触れるだけで針で刺されたような感覚を伴い、足の裏にできた場合は歩行困難になるほどです。最も過酷なのは口腔内の粘膜にできる口内炎で、喉の奥まで広がるため、唾液を飲み込むことさえ躊躇われるほどの激痛、いわゆるガラスの破片を飲み込むような痛みと表現される状態に陥ります。これにより、大人は食事はおろか水分補給さえ困難になり、脱水症状を招くリスクが高まります。また、大人の手足口病では重症化のリスクも無視できません。稀ではありますが、ウイルスが中枢神経に侵入することで髄膜炎や脳炎を引き起こしたり、心筋炎といった命に関わる合併症を誘発したりすることがあります。激しい頭痛や嘔吐、視線の定まらない様子、あるいは呼吸の乱れが見られた場合は、一刻を争う救急受診が必要です。さらに、大人の特有の予後として、発症から数週間後に爪が剥がれ落ちる爪甲脱落症や、皮膚がボロボロと剥ける落屑が見られることもあります。これらは体内のウイルス活動が収束した後の現象ですが、外見的なショックは大きく、完治までには数ヶ月を要することもあります。手足口病には特効薬が存在しないため、治療の基本は鎮痛剤や解熱剤を用いた対症療法となります。大人の社会生活においては、感染を広げないための徹底した衛生管理が求められますが、ウイルスは症状が消えた後も一ヶ月程度は便の中に排出され続けるため、トイレ後の手洗いは普段以上に入念に行わなければなりません。大人の手足口病は単なる子供の病気の居残りではなく、心身を激しく消耗させる深刻な感染症であるという認識を持ち、異変を感じたら速やかに内科や皮膚科を受診し、徹底的な休養を取ることが、自分自身を守り、周囲への蔓延を防ぐ唯一の方法と言えるでしょう。