高校生の発達障害を診察する際、私たち精神科医が最も念頭に置いているのは、その子が数年後に迎える「自立」という現実です。義務教育という守られた枠組みから、自らの責任で生きていく成人社会へと移行するこの時期は、発達支援における最も重要なラストスパートの時期と言えます。まず、病院で行うのは、本人が自分の特性を自分の言葉で説明できるようになるためのサポートです。他人に助けを求めること、いわゆる「援助希求」のスキルは、大人になってから生きていく上で、高学歴であること以上に価値があります。「私は急な予定変更が苦手なので、事前に教えていただけますか」といった、自分の困りごとを具体的に伝える練習を、診察室での医師とのやり取りを通じて重ねていきます。次に、自己管理能力の育成です。高校生になれば、自分が服用している薬の名前や効果、副作用を自分で把握し、飲み忘れがないように工夫する責任を持つよう促します。これは、自分の健康を自分自身でハンドリングする「主権者」になるための訓練です。医療機関では、家族に対しても「子離れ」のアドバイスを行います。いつまでも親が全てのスケジュールを管理し、失敗を先回りして防いでしまうと、本人は自らの特性に対する対処法を学ぶ機会を失ってしまいます。失敗した時に、それを責めるのではなく「なぜ起きたのか」「次はどうすればいいのか」を病院という中立的な場所で客観的に分析することが、将来の大きな失敗を防ぐことになります。また、高校卒業後の進路において、障害者枠での就職を目指すのか、一般枠で配慮を受けながら働くのか、あるいは大学進学後に学生相談室を活用するのかといった、具体的な進路相談も病院の役割です。最近では、地域のハローワークや就労移行支援事業所と連携し、高校時代から「働くこと」を意識したプログラムを提案する病院も増えています。精神科医は単に病気を治す人ではなく、患者の人生がどうすればより彩り豊かなものになるかを一緒に考えるプランナーであるべきです。高校生という繊細な時期に、自分の心と身体の癖を否定せず、それを「ユニークな個性」として抱えながら歩き出す準備を整えること。そのために病院という場所を使い倒してほしいと願っています。自立とは、一人で何でもできることではなく、自分の苦手を知り、適切に周囲の助けを借りながら自分の人生を愛せるようになることです。私たちは、診察室という小さな窓口から、一人の若者が広い世界へと踏み出していく背中を全力で支え続けます。
精神科医が教える高校生の発達支援と自立へのステップ