「小児科は何歳まで診てくれるのですか」という質問を、私は毎日のように診察室で耳にします。私はいつも笑顔で「あなたが自分でお金を持って、一人で内科に行けるようになるまでですよ」と答えるようにしています。医学的な定義はさておき、小児科医としての私の信念は、思春期という激動の時期にある子どもたちを最後まで見届けることにあります。一般的に、中学生や高校生になると身体は大人に近づきますが、内臓の機能や免疫システム、そして脳の神経回路はまだ発達の途上にあります。例えば、薬の副作用の出方や、ウイルスの感染に対する反応は、成人のそれとは微妙に異なることがあり、小児医療の訓練を受けた医師でなければ見落としてしまう微細なサインが存在します。また、思春期は「心身症」が現れやすい時期でもあります。起立性調節障害や過敏性腸症候群といった、自律神経の乱れから来る不調は、大人の内科では単なる「疲れ」や「精神的なもの」として片付けられがちですが、小児科では成長過程の生理現象として捉え、長期的な視点で寄り添うことができます。私は、十五歳を過ぎたからといって機械的に内科へ送ることはしません。むしろ、受験の悩みや友人関係のストレスが身体に現れている時期こそ、幼少期からの性格を知っている小児科医の出番だと考えています。待合室に高校生がいることを不思議に思う保護者もいるかもしれませんが、私たちは「思春期外来」としての役割も果たしているのです。ただし、小児科から内科への移行、いわゆる「トランジション」は避けて通れない課題です。特に先天性の疾患を持つお子さんの場合、成人後の合併症や妊娠、出産を見据えた管理が必要になるため、適切な時期に大人の専門医へとバトンタッチしなければなりません。この移行は、単なる病院の変更ではなく、患者本人が「自分の病気の主人公」になるプロセスです。それまでは親が医師と話し、薬を管理してきましたが、内科へ移ることを機に、本人が直接医師と対話し、自分の身体に責任を持つ練習を始めるのです。小児科医としての最終的な仕事は、子どもを健康にするだけでなく、自立した一人の「患者」として社会に送り出すことだと思っています。ですから、何歳まで、という制限を設けるのではなく、その子が自立の準備が整ったと感じたときが、小児科を卒業する最良のタイミングなのです。