それは記録的な猛暑が続いていた七月のある週末の出来事でした。三歳になる息子を連れて、家族で近所の市民プールへ出かけました。息子は水遊びが大好きで、その日も二時間ほど夢中で流れるプールや滑り台を楽しんでいました。その時は、まさかその数日後に地獄のような日々が待っているとは夢にも思っていませんでした。プールから帰宅した翌々日の夜、息子が突然「お口が痛い」と言って夕飯を食べるのを拒みました。熱を測ってみると三十八度五分。翌朝には手のひらと足の裏に、小さな赤いポツポツとした発疹が現れ、小児科で下された診断はやはり手足口病でした。医師からは「今はプールの時期だから、どこでうつってもおかしくないですよ。水そのものより更衣室やおもちゃでうつることが多いですね」と言われ、あの日のお出かけを激しく後悔しました。息子の症状は重く、特に口内炎がひどかったため、水さえも飲み込むのが辛そうで、泣き叫ぶ姿を見ているのは親として本当に胸が締め付けられる思いでした。プリンやゼリーさえも「しみる」と言って拒絶し、結局、高熱と脱水症状一歩手前の状態で二日間を過ごしました。ようやく熱が下がり、口の痛みも和らいできた五日目、今度は手のひらの水疱がパンパンに膨れ上がり、息子は痒みと違和感で機嫌が最悪の状態が続きました。一週間が経ち、ようやく発疹が枯れて茶色っぽくなり、元気に遊び始めたとき、私は安堵のあまり涙が出そうになりました。しかし、手足口病の恐ろしさはそれだけではありませんでした。看病していた私にも、喉の激痛と微熱が出始めたのです。大人の手足口病は重症化しやすいという噂通り、喉にガラスの破片が刺さっているような痛みで食事ができず、手のひらの発疹はペンを握るのも苦痛なほどでした。この体験を通じて痛感したのは、プールの塩素消毒を過信してはいけないということです。たとえ水が綺麗に見えても、多くの人が集まる場所には確実にリスクが存在します。特に子供がまだ小さい時期は、流行情報に敏感になり、少しでも体調に不安がある時は無理をさせない、そしてプールから上がった後はとにかく念入りに全身を洗うという基本の徹底がいかに重要かを学びました。息子はその後、二週間ほどして足の指の皮が大きく剥け始めましたが、これも手足口病の後遺症だと知り、この病気のしぶとさを改めて思い知らされました。今年の夏は、市民プールはお休みして、家の庭に小さなビニールプールを出して遊ばせることにしました。あの辛い経験を二度とさせたくない、その一心での決断です。手足口病はただの夏風邪ではありません。家族全員を巻き込む、侮れない感染症なのです。