小児科は何歳まで受診すべきかという議論は、日本国内に留まらず、世界的な医療の潮流として大きな変化を迎えています。欧米諸国、特にアメリカやイギリスでは、小児科の診療対象を二十一歳、あるいは病態によっては二十五歳まで延長する動きが一般的になりつつあります。これは、脳科学の発展により、前頭前野を中心とした脳の「大人の完成」が二十代半ばまでかかると判明したことや、若年層特有の生活習慣病、メンタルヘルスの問題が急増しているという社会的背景があります。世界保健機関(WHO)も「アドレッセント(思春期・若年層)」を十歳から十九歳と定義し、この層に対する特別な医療アプローチの必要性を強調しています。これに対し、日本の現状を見ると、依然として中学生(十五歳)を境に「小児」と「成人」を切り離す意識が根強く残っています。しかし、この断絶は「ドロップアウト」という深刻な問題を引き起こしています。小児科では手厚いケアを受けていた持病のある若者が、内科に移った途端に医師との関係が築けず、通院を自己中断してしまうケースが後を絶たないのです。これからの日本の小児医療に求められるのは、年齢による強制的な足切りではなく、内科とのスムーズな「連携(コラボレーション)」です。具体的には、高校生から大学生にかけての時期を「ヤングアダルト」という独立したカテゴリーとして位置づけ、小児科医と内科医が共同で診療にあたるモデルの普及が待たれます。また、診療報酬制度においても、小児科医が若年層を診察し続けることへの評価をより高め、専門性の高い「移行支援」が経済的に持続可能なものになるよう改善していく必要があります。患者や保護者の意識改革も重要です。小児科は「子どものための場所」という限定的な見方を捨て、人生の最初の四半世紀を支える「生涯健康管理の出発点」であると再定義すべきです。何歳まで通えるか、という不安の裏側には、常に「質の高い医療を継続したい」という願いが隠れています。世界の潮流に習い、日本もまた、年齢という境界線を超えて、一人ひとりの若者が自らの健康を誇りを持って管理できるようになるまで、医学が全力で伴走する社会へと進化していかなければなりません。小児科の卒業は、医療との縁が切れることではなく、より成熟した医療関係の構築へのアップグレードであるべきなのです。私たちが今、何歳まで小児科に通うかを考えることは、未来の大人たちがどれほど健康に、そして賢明に生きていけるかを決める、重要な公衆衛生的課題そのものなのです。